20XX年〇月△日(休職から5日目)
実感が湧かない。でも受け入れるしかない。
荷物が重い。
まるで誰かに手を引っ張られているみたいだ。
「暫く仕事のことは考えないで下さい。」
「寝て食べることだけを考えて下さい。」
簡単に言わないでほしい。
家に居たんじゃ忘れられない。
音は無いのに、声が聞こえてくるんだ。
だったら遠くに行くしかないじゃないか。
すべてを忘れられるように。
なにも考えなくていいように。
移動中に思うこと
長距離移動には慣れている。
先週だって商談で数百キロ移動した。
それに無理だと思っていた夢が叶うんだ。
時間さえあれば行ってみたかった場所が、
数時間後にはどんどん到達される。
うわぁ~楽しみだ!
楽しみなはずなんだ!
楽しみなはずなのに。
風が凄く寒い。
何度も人と行き交うのに誰もいないと感じる。
楽しみが詰まっているはずの荷物は、
相変わらず後ろに引っ張ってくる。
振り返ると、いつものYシャツとスーツ姿は置いてきたことを思い出した。
着実にホテルには近づいている。
それなのに、歩けば歩くほど、途方に暮れる気がした。
夢だったホテルビュッフェ
テレビ特集を見てから、ずっとお気に入り登録されていた。
まさかこんなに早く夢が叶うなんて。
街並みを眺めながら、大ご馳走を堪能した。
・・・あれ?なんか味気ないな。
咀嚼が進まない。
隣のカップルは「美味しい!♪」と弾んでいた。
窓を見ると、そこには日常があった。
今頃みんなは会社だろうな。
先週まで僕もその日常の仲間だった。
今では凄く遠くて、ぼんやりと空を眺めるしかなかった。
次の町へ続く
移動中、車窓を目的もなく眺める。
ただただ早送りで街並みが流れていった。
この時少し感じたんだ、解放されたんだと。
しばしば『日常』が浮かんでくる。
あの時どうしてって悔やんでしまう。
でも旅行は一瞬一瞬は忘れさせてくれた。
今その時その場所に集中させてくれた。
今はそれでいい。
まずは一瞬でも忘れるところから始めよう。
「いま、ここに」僕は存在してるんだ。
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