20XX年〇月△日(休職する約4年前)
てめぇ、どう落とし前つけるんだコラァ!
この損失、生涯かけて償えよ!
お客様から怒号が飛んでくる。
電話越しに。
誰もミスはしていない。
勿論、僕もミスしていない。
ただ急激な需要増でサービスが追い付かないだけだった。
仕方なかった。
お客様も考えればわかるはずだった。
でも、許してくれない。
どんなに説明しても怒号は止まらない。
ダレモタスケテクレナイ。
約4年後。
過労で休職した。
カウンセリングのなかで、この時の経験もトラウマの蓄積になり、
休職の一因になっているとは思いもよらなかった。
サービス供給が追い付かない
この時期、たまたま急激に需要が伸びた。
急いでサービス拡充化を会社も実施したが、とてもじゃないが間に合わない。
お客様たちから電話が殺到する。
そのなかで、あるお客様から電話があった。
申し訳ございません。
ご存じの通り急激な需要増で、どうしようもないんです。
どうしても準備ができない状況でして。
順番になりますのでお待ちください。
誰かにだけ特別扱いでサービスして、他は無視するなんてできない。
それでは独禁法になる。
ある程度努力はするが、誰かにだけサービス提供して、他にはしないといったことはできなかった。
ご要望頂いた全てのお客様にご提供する義務があった。
どうしても供給が追い付かないから順番にならざるを得なかった。
そっちの都合なんてどうでもいいんだよ。
ウチにだけサービス供給してくれればいいんだよ。
お客様も必死なのだろう。
でも、どうしようもない状況なんだ。
必死に説明した。
知らねぇよ!
お前、どう落とし前つけてくれんだ、ぁあ!
高額な損失、てめぇ一生かけて償えよ!
違約金として請求してやるからな!
別に何も違反はしていない。
例えるなら、スーパーで卵が売り切れた直後に買いに来たお客様が、
卵買えなかったから1億円損害賠償するって言っているようなもんだ。
もちろん営業担当として、僕の権限で可能な範囲の努力はした。
でもそんなもの、限度がある。
少し順番を早くするくらいだ。
どんなに誠意をもって説明しても聞いてもらえず、今すぐサービスしろの一点張りで、
ずっと怒号を聞かされ続けた。
お客様との経緯
そういえば、このお客様も前任から引き継いだんだよな。
さらに数年前、前任の営業担当もお客様に厳しく言われ、上司に言ったんだ。
このお客様、もう私には無理です。
それで僕が引き継ぐことになった。
たしかに当社にも悪いところはあった。
当社の常識で交渉してて、お客様からすれば筋が通っていないのだ。
だから全力で改善を図った。
だが一方で、お客様の怒号も怖かった。
基本電話やメールだと怖く、直接お会いしたら穏やかになるのだが、
もし電話でのお客様がそのまま目の前に現れたら、きっと指を切られるか海に沈められるだろう。
それくらいの剣幕だった。
一方で、言っていることの中には理に適っていて学ぶことも多かった。
それから一生懸命お客様と向かい合い、学ばせていただき、
最近では会食をするくらい関係性は向上していた。
誰も助けてくれない
もう僕の手には負えない。
それくらいの状況に陥っている。
もう企業間での交渉じゃなきゃ改善は見込まれない。
そう思って営業部長に直談判した。
これ以上の交渉は無理です。
私の権限では限界があります。
部長からご説明頂けないでしょうか。
違約金を請求すると言っています。
しかし営業部長からの回答は非情だった。
こっちは忙しいんだ。
それくらい自分でどうにかしろ。
いつもそうだ。
トラブルや面倒事、自身の評価が下がることや痛みを伴うことからは必死で逃げる。
そして部下に押し付ける。
今回もトカゲのしっぽ切だ。
結局、お客様からの怒号を聞き続けることにした。
しかし僕にも限界が来た。
申し訳ございません。申し訳ございません。
泣きながら対応していた。
するとお客様もバツが悪かったのか、「もういいよ」と吐き捨てられ、妥協案で事態は収束した。
数時間後、お客様からは謝罪メールが来た。
それから暫く、この時のことが夢に出てくるようになった。
ふと思い出し、胸が痛くなる。
それは約4年経った今でも続いている。
カウンセラーから言われた。
よくこれだけの仕打ちを受けて、耐えてきましたね。
そういった辛い経験が蓄積されているんです。
そりゃ倒れて当然ですよ。
まさかあの時の痛みも休職の要因になっていたとは思いもよらなかった。
今はゆっくり休もう。
そしてあの時の僕に伝えたい。
よく頑張ったね。僕。
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